山梨医科大学雑誌 第1巻3号 075-080(1986)
<原著>高齢者における慢性硬膜下血腫の臨床的検討
辻 令三,三塚 繁,佐々木秀夫,
金子的実,保坂 力,深町 彰,
貫井英明
抄 録:われわれは,過去2年間に,高齢者における慢性硬膜下血腫を23例経験した。それらにつき臨床的検討を行い,その症候学的特徴につきここに報告する。対象は65歳以上の症例とし,年齢,性別,臨床症候,特に三主徴といわれる―頭蓋内圧亢進症状,精神・意識障害,運動麻痺―,さらに頭部外傷との関連,血腫側,手術法,治療予後につき検討した。年齢は80歳代が9例と最も多く,平均77歳であり,50歳代にピークがあるとされる本症の一般症例群に比較してみても,超高齢者群を対象としている。 性差は男性70%,女性30%であり,これも一般症例においては,90%以上と圧倒的に男性例が多いのに比し,やや女性が多い。次に入院時の三主徴であるが,精神及び意識障害と運動麻痺についてはその発現率はそれぞれ70%を越え高く,圧亢進症状は一番多くみられた頭痛で30%と比較的低い,頭部外傷との関連では一般症例の50-70%に比較して,60%と大差はなかった。血腫側は右側8例,左側11例,両側4例であった。22例に対して穿頭術を行い,うち20例については血腫を洗浄する際空気が硬膜下腔に混入し,術後気脳症による回復の遅延を防止するため,穿頭後直ちにドレーンを挿入し4-5日かけて閉鎖ドレーンで血腫を除去するという手術法をとった。治療成績は,退院時に症状が消失した症例は,23例中17例74%であり,高齢者においても治癒率は比較的高い。以上より,精神・意識障害及ぴ神経症状,特に運動麻痺が症状の前景にたち頭蓋内圧亢進症状が目立たないことが,高齢者慢性硬膜下血腫の特徴であり,圧亢進症状が目立たないため,頭蓋内占拠病変を疑わないと,高齢者ゆえ脳梗塞や痴呆などと誤りやすい。特異的な徴候がないため,このような特徴を絶えず念頭におき,疑わしい場合は直ちにCTを行うぺきである。
キーワード 慢性硬膜下血腫,高齢者,痴呆,意識障害,閉鎖ドレナージ法
Chronic Subdural Hematoma in the Aged
Reizo Tsuji, M.D., Shigeru Mitsuka, M.D., Hideo Sasaki, M.D.,
Masami Kaneko, M.D., Chikara Hosaka, M.D.,
Akira Fukamachi, M.D. and Hideaki Nukui, M.D.
We retrospectively analyzed 28 patients over 65-years-old with chronic subdural hematoma treated in the period of 1984 to 1986. On admission, while 70% of the patients presented signs and symptoms of psychiatric changes, disturbance of consciousness, or motor weakness, only 30% had signs of increased intracranial pressure. This clinical picture in the aged closely resembled the signs and symptoms of dementia or cerebral infarction and tended to lead a wrong diagnosis. Although their average age was 77, among our 28 operated cases with closed drainage system, 74% fully recovered and the remaining 26% had some neurological deficits on discharge. The importancc of computerized tomography for diagnosis and good results obtained by early surgical treatment were emphasized.
Key words: Chronic subdural hematoma, Aged, Dementia, conscious disturbance, Closed-system drainage
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