山梨医科大学雑誌 第12巻2号 063-068(1997)

<原著>新生児,乳児期早期の先天性心疾患に対する術前画像診断
―特にエコー診断のみの妥当性と限界―

吉井新平,鈴木章司,保坂 茂,高橋 渉,
加藤淳也,奥脇英人,大沢 宏,福田尚司,
片平誠一郎,A. Samuel,多田祐輔,丹 哲士,
杉山 央,藤嶋美奈子,駒井孝行,矢内 淳

抄 録:新生児,乳児期早期に開心術をせざるを得ない症例は複雑かつ重症例が多く,このような例には原則として心エコー診断にて適応と術式を決定してきた。今回この方針の妥当性と限界を検討した。'91年〜96年に行なった小児開心術111例117回中,60日以内の23例23回を対象とし,手術成績,心エコー診断と実際の病態の相違,心エコー診断のみにて手術を行なったことが直接手術成績ヘ関与した程度を検討した。60日以内症例の手術成績は,薪生児18例中死亡11例,29-60日以内5例中死亡3例で,姑息術8例中死亡7例,根治術15例中死亡7例で死因は多彩,複合的であった。術前心エコー診断が術中所見と相違した例は5例で,うち2例は複雑かつ重症例で,正しく病態診断ができたとしても救命不能であったと考えられた。最終的に心エコー診断に問題があった例は心室中隔欠損症の1例での部位の問題,大血管転位症の2例での冠動脈走行の問題であった。なお心室中隔欠損症についてはその後心エコー診断能が向上し,全例正診している。2力月以上の94回の開心術では全例術前に心臓カテーテル検査,および心血管造影を行なっており,手術死亡,病院死亡ともなかったことから60日以内例でも同様な検査は望ましいが,実際上症例によっては過大侵襲となる可能性は依然として存在している。以上から当面,(1) 心室中隔欠損例ではエコー診断を中心とする,(2) 大血管転位例では可能な限り心臓カテーテル検査および心血管造影を行い,とくに冠動脈の走行を確認する,(3) 複雑心奇形例では当面特殊例を除き,より詳細に心エコー診断を行い,心臓カテーテル検査や心血管造影は最小限に止める方針が妥当と思われた。

キーワード 先天性心疾患,開心術,新生児期,エコー診断




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