山梨医科大学雑誌 第14巻1号 001-005(1999)

<総説>電磁場が染色体に及ぼす影響

飯島純夫

抄 録:近年,電磁場の生体への影響に関心が持たれるようになってきた。1979年に,送電線下の小児白血病発生率が対照に比べて高いと報告されて以来,電磁場と発がんとの関連は現在まで議論されているが,結論がでていない。発癌性は変異原性と密接に関連しており,発癌性があるとすると,その前段階として変異原性もある可能性が高い。変異原性とは,遺伝子突然変異と染色体への影響が含まれる。本稿では,電磁場による染色体への影響に関する過去の主な知見について総説した。
 定常磁場単独では,現在までのところ数テスラといった相当の強磁場でも変異原性は認められていない。また,超低周波変動磁場の染色体への影響も,ごく一部を除き大部分が陰性の報告である。そこで,筆者らは感受性の高い系のヒト精子染色体によって,超低周波磁場単独および既知変異原との複合影響について検討した。既知変異原としてはブレオマイシン(BLM)とN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)を選んだ。両既知変異原に関し,染色体異常を持つ精子出現率にも染色体異常をタイプ別に分類した場合でも,曝露群と非曝露群との間に差は認められなかった。これらの結果はBLMとMNNGによるDNA損傷の増幅作用が,超低周波磁場曝露にはなかったことを示唆している。
 いずれにしても,現段階では,変異原性に関しては,電磁場の場合,まったくないか,あったとしても非常に弱いものと考えられる。

キーワード 電磁場,染色体異常,精子染色体,ブレオマイシン,MNNG



Effects of Electromagnetic Fields on Chromosomes

Sumio Iijima

Recently public concern about the carcinogenic effects of electromagnetic fields, especially extremely low frequent magnetic fields (ELF), has been increasing. However, the results of previous studies on ELF and cancer have been still controversial. If ELF has carcinogenecity, it might have mutagenecity also. As for the mutagenecity of ELF, few reports demonstrated positive results either in mutation of DNA or in chromosome aberration and sister chromatid exchange. We also observed that static magnetic fields did not affect human chromosomes, and that neither ELF alone nor ELF combined with known chemical mutagens, such as bleomycin and MNNG, did affect human sperm chromosomes.

Key words: Electromagnetic fields, Chromesome aberration, Sperm chromosome



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