山梨肺癌研究会会誌 第13巻2号 052-057(2000)
肺癌の遺伝子治療 −臨床試験の現況−
藤原俊義
要旨
癌は遺伝子変異の蓄積により発生する「遺伝子病」であり、発癌の過程には癌遺伝子の活性化および癌抑制遺伝子の不活化などが複雑に関与している。正常な状態ではこれらの癌関連遺伝子は細胞の増殖や分化を制御しており、その機能喪失により癌細胞としての悪性形質が獲得される。癌関連遺伝子を標的とした「遺伝子治療」は異常遺伝子の機能修復を目指しており、既存の化学療法や放射線療法とは異なるコンセプトに基づいた治療戦略である。p53遺伝子はヒト悪性腫瘍で最も高頻度に異常が認められる癌抑制遺伝子であり、細胞周期制御やアポトーシス誘導、血管新生抑制など複数の癌抑制機構で重要な役割を果たしている。多くの前臨床試験の結果、ウイルス系ベクターによるp53遺伝子導入の抗腫瘍効果が確認され、米国では非小細胞肺癌および頭頚部扁平上皮癌に対するp53遺伝子治療の臨床試験が開始された。すでに、非小細胞肺癌に関しては第I相試験は終了しており、現在、放射線を併用する第II相試験が進行中である。われわれも、1999年3月より岡山大学医学部附属病院において非小細胞肺癌を対象にp53遺伝子治療の第I相臨床試験を開始した。現在は極めて初期段階にある癌の遺伝子治療であるが、これらの臨床試験を含めた今後の研究開発により、将来的には画期的な治療法となることが期待される。
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