山梨医科大学紀要 第5巻,041-047(1988)

ヒポクラテス「誓い」を読む(1)

川田 殖

 ヒポクラテスの『誓い』は、それが医学の父の名を冠せられていることもあって、今でも欧米の医学校の卒業式などで読み上げられている所もあるほど広く行きわたった、医者の倫理訓とされてきた。しかしこれをこんにちの状況の中で自分たちの言葉として読むにはいろいろ距離があるというのがわれわれの実感ではないだろうか。欧米には欧米の伝統があるのだから、それはそれでよいとして、われわれとしてはこれをどう理解したらよいか。このことを少しばかり考えてみたい。とはいえこの『誓い』には古来いろいろな問題が含まれていて、これらを無視して一足飛びに結論を出すというわけには行かない。そのためには、写本の伝承、刊本の吟味、本文の確定、逐語訳の試み、言語的特徴、などのテクスト上の問題をひと通り考えた上で、成立年代の見通しをつけ、思想内容の検討に入ることが順序であろう。その際には医学、宗教、倫理、さらには社会史的背景の考察もあわせて必要となろう。今回はさし当りテクスト上の問題を主として考察することにしたい。

キーワード:ヒポクラテス、誓い、医学倫理



Looking into the Hippocratic Oath (1)

Shigeru KAWADA

How to read the Hippocratic oath in our present context? To approach this question, we first tried to provide the reliable textual evidence in reference to the transmission of the manuscripts and their editions. Then we tried to give our word -for-word translation with some grammatical and exegetical comments. Finally we tried to sum up some remarkable points on the diction and literary style of this document and suggest its date of circulation.



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